溢れる様々な情報や早いスピード、忙しさや時間に追われ、私達は心身共に、他者との肌での付き合いや接触が減ってきている傾向にあるのではないでしょうか。人は、接触が減ると、体内から※オキシトシンという成分が減ってしまいます。

オキシトシンとは、(Oxytocin, OXT)は、視床下部室傍核視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである 。「幸せホルモン」、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、ストレスを緩和し幸せな気分をもたらします。 (ウィキペディア)

アシュリー・モンタギュー(Ashley Montagu)は、”Touching: The Human Significance of the Skin(1971)” で母子関係の観点から、触れる事について総合的な考察を述べています。哺乳類、猿、類人猿、人の行動の研究の結果、接触は行動の基本的な欲求であり、幼児が、他者に依存するのは、接触行動を通して、社会的に成長し、他者との触れ合いを維持していくようにデザインされている為であることが記されています。 接触の欲求が満たされない時に、異常行動が生じます。接触によるコンタクトは、行動的な発達において、とても重要な影響を与えるとモンタギューは述べています。親が子供を抱きかかえる事で、子供は親密さ、愛、安心、健やかさなどを身に付けていきます。

”私達の皮膚は身体で最も大きな感覚器官である。皮膚を構造している様々な要素は、脳と非常に似た機能を持っている。感覚システムとして、皮膚は、身体で最も重要な器官である。なぜなら、皮膚の働きによる身体的、行動的機能なしには、人間は生きていくことができないからである。全ての感覚の中で、触覚は際立っている。触覚のシステムは胎児の時期から、最初に機能する感覚器官であり、おそらく、最後まで残る感覚器官なのです。”

愛情に満ちた他者との接触があるとき、皮膚は、自己と他者との境界線ではなくなり、異なる自己同士の融合を経験します。対照的に、苦痛や不快感を伴う皮膚へ の他者との接触は、トラウマ体験が深く皮膚に刻まれる事で、皮膚は防御的になり、他者との融合を経験することは、困難になってしまいます。他者との接触と同じ位大切な役割をもつのは、自分自身に触れるセルフ・タッチです。身体的に自己という境界線の意識を確立する手段であり、セルフ・ケアによって、自己への気付きを得られます。自分自身で自分の身体に触れる、抱えてあげるという行為は、その素晴らしい効果が認められています。肩の上に手を置くとか、腰に腕を回すといった単純なタッチでさえ、心拍数を減少させ、血圧を下げる事ができるといわれています。昏睡状態の人が、手を握られると心拍数が改善されるケースもあるように、タッチは、鎮痛作用をもつホルモンであるエンドルフィンを生産するように、脳に刺激を与える事も出来ます。児童心理学者のスターンもこのように述べています。

”愛着の持つ究極の魔力は接触です。そして、その魔力は皮膚を通して体内に入ります。胸と胸を合わせ、頭を相手の肩や首に預ける接触を経験するうちに、安らぎは表面からはじまり、内側へと流れ込んでいきます。”

皮膚は、人体で最も大きな面積を占める器官で、最大の「臓器」といえます。重量は3キロ近くあり、畳一畳分程の大きさがあるといわれています。皮膚は、自己と自己でないものの根本的な境界線を形成し、自己感の概念を規定しています。接触や圧力、熱などのわずかな変化を記憶し、皮膚の感覚神経が直接的に脳に刺激を伝達し、快感、や不快感などの感覚に変換されます。この知覚により、私達は自己と外界との相互関係を知ります。

私は、小さい頃からお父さん子ではないかと自覚していました。いつも思い出されるのは、幼稚園の時にお腹が痛くて苦しんでいると、父親が長い間、黙ってお腹をさすってくれていた事です。当時はその意味がわかりませんでしたが、その感触や安心感は今でもしっかりと記憶に残っています。5歳離れた弟は、小さい頃泣き虫で、姉としてよく手を繋いでいました。手を繋いでいた弟と、特に手を繋いでこなかった妹とでは、断然弟の方が贔屓で可愛く思えます♪母は、さっぱりした性格なので、甘えた記憶は多くありませんが、今は私の方から積極的に手で触れて施術するハンズ・オンを心掛けています。実際に、母に触れると、母との距離がぐんと、近くなったような感じが致します。☺

参考文献: 『ソマティック心理学』 久保降司 著